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考察(絞殺)
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いつもと変わらない毎日もここまでかもしれない。
僕は講義の内容をノートに纏めると足早に講義室を出た。
何か両肩に憑いているように身体の節々が重かった。
病は気からというように、精神的に疲れているということか。
どちらにしろ馬鹿らしい。
自分がしたいだけなのに、何を心配しているのだというのか。
部屋に入ると既に秋桜はモニターの前で何かを調べていた。
相変わらず電気は灯っておらず、これで眼鏡をかけていないのだから考え物だ。
いったいどのくらいの月日をここで過ごしているのだろうか。
講義もロクに出ずにこの部屋で過ごす。
秋桜からもらったCDはパソコンの中には入れていない。
どうやらセキュリティの観点からCDを持ち運んで見るようにとの注意を受けた。
どうにもこうにも一介の学生に出来る事なんて限られているのではないだろか。
魔法がつかえるわけでもなく、格闘技を習っているわけでもない。
「馬鹿みたいだ」
あざ笑うかのように僕はそういうとパソコンの電源を入れる。
秋桜からこのCDを受け取っていたその晩に全ての記事について目を通している。
事件の関連性はここ数年の事件と照らし合わせても該当するものはない。
繰り返して何をしているんだろうという気持ちが押し寄せる。
「犯人は誰だろうな」
どの資料を見たって分かりっこないじゃないか。
唯一の手掛かりが僕の事件との関連性。
首つり自殺と見せかけた殺人。
もちろん警察側もそれは分かっている。
睡眠薬を飲ませた後に首を吊らせている。
何故わざわざ首を吊らせたのか。
眠らせたのであればナイフでも包丁でもいいから刺して殺してしまえばいい。
でも犯人はそれをしなかった。
そこに一つ法則があるのではないかと僕は推測した。
首を吊るロープと、そして括りつける柱。
この二つがなければそもそも犯行は起こらなかった。
母親と父親の両方ともが首を吊っていた。
「わからないのが複数点ある」
秋桜はぽつりと口を開いた。
「ん。なんで首吊りなんだって事か?」
「それもある。でもそもそもの問題、なんで両親が居た頃に犯行したのか」
そうか。何故二人も居る中で犯行に及んだのか。
当時山口の両親ともに自宅に居たらしいし、車も車庫にあった。
わざわざ車庫に車があるにもかかわらず、みすみすと犯人は犯行に及ぶのだろうか。
「それともう一つ。何で自宅で殺したのか」
「ん、どういうことだ?」
「家に押し入ったということは、娘が居た事は犯人も気が付いたはず。
いつ帰ってくるかも分からないのに、首を吊らせるなんて意味がわからない」
「そうか、下手すると鉢合わせになるかもしれない」
死亡推定時間を確認してみても、下手したら山口は家に帰っていたかもしれない時間だ。
「なのに犯人は手の込んだ首つりをさせた」
犯人の趣味なんだろうか。
「そして最後――――なんで山口の両親は殺されなければならなかったのか」
「それって、結構この事件の核心だよな」
山口家の金品はまったく動く事もなくいつも通りの場所にあったという。
ということは強盗関係の犯行ではないということだ。
「強盗の線は消せない」
「なんでだ?」
「何故なら金品でない、何かだったとしたら」
「む」
例えば誰かにとって致命傷になるような物的証拠を山口の両親が持っていたとすれば、
それが亡くなってしまったとしても警察には分かるはずもない。
仮にこの説が正しいのであればその秘密は犯人と、もう墓場で眠る山口の両親しか知らないことになる。
死人に口なしとはまさにこの事だ。
でもこの説はないと信じて考えなければならない。
でないともう詰みだ。一生わからず終わってしまう。
消極的でそして強行的な理論の確立の排除。
「でもさ―――」
「しっ」
それはないだろうと言う声に被せるように、秋桜の声。
その目はドアの曇りガラスに向けられている。
「―――――ん」
理解した。曇りガラスの向こうに居る人物。
背の高さから首からちょうど上のおぼろげな形しか分からなかったが、
その人物を当てるには容易いことだった。
やがて曇りガラスからは人影が消え、もとの曇った薄いブルーの光と、向こう側の壁の色が混じり合った色になった。
「聞かれてたか・・・?」
「それはない。今来てたみたい」
どうやら直ぐに秋桜が気が付いたようだ。
「行ってあげて」
「俺が?」
返事はなかった。
もう喋る事はないとでも言わんばかりに秋桜は自分のモニターを眺めていた。
僕はCDを丁寧に回収してプラケースに直して鞄の中に入れた。
パソコンは戻ってくるかもしれないので、モニターだけ消してそのままにしておいた。
部屋を出るまでの間、先日の山口との話を思い出していた。
少し緊張しているのか、ドアを握る手に力が入る。
「また明日」
ドアを開けて直ぐ声が聞こえた。
それはもう今日はここに来なくていいという意味なのか。
僕が今日は戻ってこないと確信しているようなそんな口調だった。
「――また明日」
僕は彼女の言葉を繰り返した。
■ぽすと・すくりぷと 04
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